Study & Practice

北海道札幌市のプログラマによる技術とか雑記のブログ

ドラッカーの「マネジメント」入門|「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んでみた

f:id:carametal:20200927214747p:plain

ブログ「最も早くオシャレになる方法KnowerMag」のMBさんが成功の要因としてドラッカーのマネジメントを読み込んで徹底的に実践しているという話をしていました。マネジメントは組織経営のあり方についてまとめられている本ですが、MBさんの話を聞いていると自分自身をキャリアを形成することにもとても良い効果をもたらす模様。

読んでみたいと思ったものの、分厚く内容も非常に難解な本らしいので、まずはわかりやすく読みやすい本から始めるということで約10年前に流行った「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、通称「もしドラ」を読んでみることにしました。

敏腕マネージャーと野球部の仲間たちが甲子園を目指して奮闘する青春小説。高校野球の女子マネージャーのみなみちゃんは、マネージャーの仕事のために、ドラッカーの『マネジメント』を間違って買ってしまいます。はじめは難しくて後悔するのですが、しだいに野球部のマネジメントにも生かせることに気付きます。これまでのドラッカー読者だけでなく、高校生や大学生、そして若手ビジネスパーソンなど多くの人に読んでほしい一冊。

出版元であるダイヤモンド社さんより引用

ドラッカーのマネジメントの内容を著者の岩崎夏海さんが非常に重要視しているもののみを厳選して引用しながら、ストーリーに絡めて読みやすく書いているという印象です。まだ本元のマネジメントを読んでいないので、実際にどの程度わかりやすくなっているかなどはわかりませんが、マネジメントはAmazonのレビューなどでも非常に難解だというコメントが多いのでもしドラはかなり読みやすくなっているのだと思います。本記事では読んでいて重要だと感じたところをまとめていきます。

マネージャーの資質

本書で一番に解説されていたの「マネージャーの資質」についてでした。

マネジャーの仕事は、体系的な分析の対象となる。マネジャーにできなければならないことはそのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身に着けていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである。

真摯さと一言でいっても本書から読み解けるのは顧客のことを考えるというような単純なことではなく、顧客に価値を提供したうえで働いている人自身も目標を叶えられる。そんなWin-Winの状態を常に目指し続けるというようなレベルで求められます。この辺は7つの習慣の公的成功や、人格主義に通じるところがあります。

本書の著者である岩崎夏海さんはこの「真摯さ」をかなり重要視しているらしく、本書のド頭に出てくることに加えストーリーの終盤でも「真摯さ」について語る重要なシーンがあったり、本編後の著者への解説インタビューでも「真摯さ」について結構な分量で語られています。「真摯さ」はマネジメントを読む際のキーポイントになりそうです。

組織の定義づけ

本書で「真摯さ」の次に語られていたのが組織の定義付けについてでした。それは「われわれの事業は何か?」という問いで語られます。

野球部なのだから野球をすることがわれわれの事業になりそうですがドラッカーはこう語っているようです。

自らの事業は何かを知ることほど簡単でわかりきったことはないと思われるかもしれない。鉄鋼会社は鉄を作り、鉄道会社は貨物と乗客を運び、保険会社は火災の危険を引き受け、銀行は金を貸す。しかし実際には、「われわれの事業は何か」との問いは、ほとんどの場合、答えることが難しい問題である。わかりきったことが正しいことはほとんどない。

これに対してドラッカーは「われわれの事業はなにか」という問いの答えを導き出すには「顧客」が唯一の出発点だと語ります。

つまり、「顧客がわれわれに求めるものはなにか」ということにつながります。そしてここでもう一つ「顧客とはだれか」という問いが出てきます。

マネジメントではキャデラックが例として挙げられているらしく、本書でも以下のように引用されています。

一九三〇年代の大恐慌のころ、修理工からスタートしてキャデラック事業部の経営を任されるにいたったドイツ生まれのニコラス・ドレイシュタットは「われわれの競争相手はダイヤモンドやミンクのコートだ。顧客が購入するのは、輸送手段ではなくステータスだ」と言った。この答えが破産寸前のキャデラックを救った。わずか二、三年のうちに、あの大恐慌時にもかかわらず、キャデラックは成長事業へと変身した。

キャデラックは「顧客」を単に車が欲しい人ではなく「ダイヤモンドやミンクのコートを買う消費者」と定義し、性能やコストパフォーマンスではなく、高級でかっこいい「ステータス」となる車を顧客に届けることを「われわれの事業」として定義し、成長することができたということです。

私は現在、ソフトウェア開発を生業とする企業に勤めていますが、この「われわれの事業は何か」、「顧客とはだれか」を答えるのは非常に難しいと思いました。単に「ソフトウェアを開発すること」でも、「ソフトウェアを作ってほしい人」でもないわけです。しかも、客先常駐を長らく続けてきたこともあり、企業としての技術的な強みがなく、顧客も多岐にわたるからです。また、私個人としても「なんのためにソフトウェアを開発しているのか」と深堀りしてみると全く答えが出せません。この二つの問いについては、仮設を立てて試行錯誤しながら答えを見つけていかないといけないのかなと思いました。

マーケティング

そして顧客の定義付けができれば次はキャデラックの例で言う「ステータス」というキーワードにたどり着かなければいけません。これには

「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。

と引用されている。

そしてその時に必要になるのが「現実・欲求・価値」です。これはそれぞれ、顧客が置かれている状況、顧客が求めるもの、顧客が価値を見出すもののことです。

これは現実と欲求を調査して顧客が価値を見出すものを分析するという手順になるのかと思います。T型フォードを作ったヘンリー・フォードの「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」という言葉は有名ですが、顧客が求めているのは本当に顧客が欲しいものとは限りらないからです。この辺りも仮設と検証を繰り返して顧客が真に見出すものを作り出していく必要があるのだと思います。

イノベーション

マーケティングは非常に重要であるがマーケティングだけでは大きな成果は出せない。と本書では語られており、「マネジメント」より以下のように引用されています。

マーケティングだけでは企業としての成功はない。性的な経済には、企業は存在しえない。そこに存在しうるものは、手数料をもらうだけのブローカーか、何の価値も生まない投機家である。企業が存在しうるのは、成長する経済のみである。あるいは少なくとも、変化を当然とする経済においてのみである。そして企業こそ、この成長と変化のための機関である。したがって企業の第二の機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出すことである。経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくなければならない。

そしてイノベーションを起こす手法として以下のように引用されています。

イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。イノベーションを行う組織は、昨日を守るために時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる。

つまりイノベーションを起こすにはまず初めに何かを「捨てる」ことが必要であるということです。昨今ではイノベーションは科学や技術によって起こすものと捉えられがちですが、ドラッカーの主張はそれだけではないということでしょう。

本書では「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」を捨てる手法を取っていた。程度の差はあるがどちらもメジャーリーグでも戦略としてあまり重要視されなくなってきている。いまだ古いセオリーに則っている高校野球に「送りバント」と「ボール球を打たせる投球術」を捨てた戦法で挑戦し結果を残すことで、高校野球界そのものにイノベーションを巻き起こそうということです。

私はイノベーションというと今まで新しいものを取り入れるという方向で物事を考えがちでしたが、捨てるという方向がイノベーションの一歩目というのは納得ができました。新しいことをする時間を作る場合でも、今まで何かをしていた時間を捨てなければいけません。日常的には無意識のうちにこういう取捨選択をしているのだと思いますが、意識的に捨てること特に「計画的かつ体系的に」というところが重要なのだと思います。

成果について

成果とは何かを理解しなければならない。成果とは百発百中のことではない。百発百中は曲芸である。成果とは長期のものである。すなわち、まちがいや失敗をしないものを信用してはならないということである。それは、見せかけか、無難なこと、下らないことにしか手をつけないものである。成果とは打率である。弱みがないことを評価してはならない。そのようなことでは、意欲を失わせ、士気を損なう。人は、優れているほど多くのまちがいをおかす。優れているほど新しいことを試みる。

「成果とは打率である。」と「優れているほど多くのまちがいをおかす」というのは矛盾しているような気がしますが、打席に立つ回数が多いからまちがいが増えるだけで打率は低くてはいけないということなのか。

それにしても「まちがいや失敗をしないものを信用してはならない」というのは強烈なメッセージかと思います。現代の日本企業は成功することよりも失敗しないことが評価されるという話を至る所で聞きますが、そのほとんどは信用してはいけない、成果を出していないということになります。これは組織作りにおいてかなり重要なポイントだと思います。しかし、個人においても失敗をするかもしれない行動を増やすというのはやはり成果を出すうえで避けては通れない道なのでしょう。

また、成果については以下のような引用もありました。

成果よりも努力が重要であり、職人的な技能それ自体が目的であるかのごとき錯覚を生んではならない。仕事のためではなく成果のために働き、贅肉ではなく力をつけ、過去ではなく未来のために働く能力と意欲を生み出さなければならない

努力してるから良い。努力していないから悪い。ではなく成果に価値を置かなければならない。そして職人的な技能を持っていることよりも実際に生み出す成果が重要である。これは我々のような技術者として生計を立てている人たちには少し耳が痛い部分であるかもしれません。いくら技術的に優れていてメンテナンス性やパフォーマンスに優れたシステムを開発しても成果が生まれなければならない。非常にシビアですが、事業においては最も重要なことだと思いました。

まとめ

「マネジメント」をストーリーに絡めて読みやすくした内容ではありますが、本書に書かれている内容を理解し自分の環境で実践することでドラッカーの恩恵を十分に受けられると感じました。

私はビジネス書として読んでいたのであまり気になりませんでしたが、小説として特別面白いものだとは感じませんでした。とはいえ、夏の西東京大会決勝戦のラストシーンは私自身も高校時代に野球部だったこともあって高揚感を覚えました。その点で言うとそこそこ楽しめる本だともいえると思います。

次はドラッカーの「マネジメント」を読んでみたいと思います。