Study & Practice

北海道札幌市のプログラマによる技術とか雑記のブログ

「エンジニアリング組織論への招待」を読んでみた

今年の7月から現場でスクラム開発が取り入れられたもののなかなか成果が発揮できずモヤモヤとしていたのでチーム設計や運用書籍を購入してみた。

購入したのは以下の2冊

 

エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング

エンジニアリング組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング

 

 

 

小さなチーム、大きな仕事――働き方の新スタンダード (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

小さなチーム、大きな仕事――働き方の新スタンダード (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 今回は1冊目「エンジニアリング組織論への招待」について書いていく。

全体的な感想

 正直全部は理解できていない。初めて聞く概念が多くもっと深く読み込まないと感覚的に落とし込めるとこまで行けそうにない。でも、現場のチームにおいてモヤモヤとしていた部分の霧が晴れていくような感覚が随所にあった。特にChapter3「アジャイルなチームの原理」とChapter4「学習するチームと不確実性マネジメント」はまさに今求めていた情報が詰め込まれていてどんどん読み進んでいった。先行してスクラムを取り入れていたチームと情報交換をしたときに出ていた「心理的安全性」というワードなんかも出てきて、そういえばソニックガーデンさんのブログで見たことあるなぁとか思い出すこともたくさんあった。

印象的だった内容

 心理的安全性

まずは、上記にも上げた心理的安全性について

現場では心理的安全性については、見積もりを納期だと思ってしまっていることでプレッシャーが生まれ、開発効率や品質の低下が発生してしまう。という点でしか今までは語られていなかったが、「対人リスク」という概念についてはなるほど。と思った。対人リスクとは「相手の問題を指摘」したり「自分の失敗を報告」したりする際に発生するもので、自分の評価が下がってしまうのではない、相手に悪く思われてしまうのではないかというリスクのこと。僕自身あたり他人にどう思われるかを気にして発言するタイプではないが、相手の気分を害してしまわないか、場の雰囲気を壊してしまわないかという部分に関しては気おくれしてしまうことがある。心理的安全性が高いことでそのような状況でも積極的に発言ができるようになるというのは最大のメリットのように思う。

それを踏まえて考え直してみると、心理的安全性には納期に対する不安というものも含まれているが、「対人リスク」と比べるとさほど重要ではない気がする。むしろ、土台というか、チームを運営する上でできていなければならない非常に基本的なことのような気がしてきた。

YOUメッセージとIメッセージ

これは組織論というよりも対人関係やコミュニケーションの取り方についてで、たまにネットやテレビでも目にしていたが改めて読んでいたかなり有効な技術だなと思った。

本書では遅刻を例に挙げている。遅刻した人に対して「なんで(あなたは)遅れたの?」と発言をしてしまうとそのような意思はなくても責めているような印象を与えてしまうが、「連絡がないから(私が)心配したよ」というと伝えることで責められるような印象を減らすことができるうえ、相手を「承認」しているというメッセージを伝えることができるらしい。「承認」に関してはまだ感覚的な理解ができていないが、人間関係には非常に重要な要素だと思うのでIメッセージを日常から意識して発言することは大きなメリットだと思う。

現場での失敗に対してリーダーがメンバーに対して「なんで失敗したと思う?」という発言をしていて、もっと良い言い方はないのだろうかと思っていたがこれはYOUメッセージに該当するためで責めている印象になっていたことによる不満だったのだと思う。ただこのケースでは原因を追究し対策するという目的を考えるとIメッセージに置き換えるのは少し難しいかなとも感じる。この場合は「(私は)あなたにならできたと思う。」もしくは「たしかに今回は難しかったと(私は)思う」と伝えたうえで「なんで失敗したのか」ではなく「何が原因だったのか」を聞くのが良いのかな。

あくまで見積もりは予測

「見積もりは予測であって、ノルマではない」という言葉が本書に出てきたときには、ハッとさせられた。見積もりはあくまで見積もりであって納期ではないと考えてはいたが、やはり心のどこかで見積もり内に終わらせなくてはいけない、という思いがあったように思う。さらに見積もりをノルマととらえてしまうことで、ノルマをクリアするための見積もりをする→余分なバッファをとる→開発スピードが低下するという負のサイクが発生してしまう。ということは考えたことがなかった。一般的に顧客は見積もりを超えてしまうと不満を持ってしまうと思うが、「見積もり通りに開発がすすむこと」と「開発スピードが速いこと」のどちらが良いか考えたときにどう考えても「開発スピードが速いこと」のはずなので、顧客にとっても見積もりはノルマになってしまうことはデメリットになるはず。お互いに見積もりはあくまでも予測であって、ノルマではない。ノルマと考えてしまうことでデメリットが発生するという情報を共有することで見積もりのズレも納得してもらえるかと思う。

 日本人はアジャイル開発が苦手

 今までネット上でも日本人の性格上、アジャイルになじみにくいという話をたびたびめにしていたが、そのたびにそんなことはないだろうと不満に感じていた。僕のチームでスクラムを取り入れる際にも、先行してスクラムを取り入れていたチームのリーダーが「日本人にはアジャイルは難易度が高い」といった発言をしていて気に入らないな、ともってしまったが、本書によると「権力格差許容傾向」、「成果主義傾向」、「不確実性回避傾向」といったスコア(ホフステード指数)を国際的に比較しアジャイル導入の難易度を調査するという研究が行われており、日本がもっともアジャイル導入の難しい国であるという結果が出たようだ。研究対象国が何か国なのかは不明だが(ソースにたどり着けなかった)もっとも難易度が高い、ということは現在の日本文化にはよっぽど合っていないのだろう。そう考えるとたしかに導入は難しいかもしれないがアジャイルを導入する企業が増えていくことで今後国民性の変化も期待できるかもしれないなと思った。

 

まとめ

 このほかにもかなり多くの気になる内容や、深く読み込みたい部分もあったが、特に印象に残ったのは以上の4項目だった。これ以外には対人におけるコミュニケーションについて心理学的に語られている部分があったり、チーム・企業運用におけるコストやスケジュールの管理の方法論について非常にためになりそうな内容が数多く書かれていたので、またタイミングを見て読み直したい本だった。アジャイルの歴史的背景なんかも書かれているのでチームが行き詰ったときのヒントになるかもしれないと思う。

今回はスクラム導入で行き詰ったためのヒントを求めて購入したが、本当に買ってよかったと思う。もう一冊「小さなチーム、大きな仕事」についても読み終えたら来週あたりにブログを投稿したい。